微かな、かけがえのない光を。川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』

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「しっとりした大人の恋愛が読みたいな」そんな気持ちで何気なく手に取ったのは、川上未映子さんの『すべて真夜中の恋人たち』(講談社文庫)。人と接することが苦手な入江冬子が、誰もいない部屋で仕事をする日々のなか、三束さんに出会って恋をする物語です。不器用な大人のための恋愛小説。

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「しっとりした大人の恋愛が読みたいな」

そんな気持ちで何気なく手に取ったのは、川上未映子さんの『すべて真夜中の恋人たち』(講談社文庫)。

暗めの表紙に手書きで書かれたきらきらとした模様。

そこに入っている『すべて真夜中の恋人たち』というタイトル。

きっとロマンチックな物語なんじゃないかなと想像しながら読み始めました。

◆『すべて真夜中の恋人たち』のあらすじ

”真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。
それは、きっと、真夜中には世界が半分になるからですよと、いつか三束さんが言ったことを、わたしはこの真夜中を歩きながら思い出している。”

冒頭に出てくる最初の二行が、読んでいる間ずっと、頭の中をぐるぐると巡ります。

”真夜中は、なぜこんなにきれいなんですか。
真夜中はどうしてこんなに輝いているのですか。
どうして真夜中には、光しかないのですか。”

『すべて真夜中の恋人たち』の主人公は、人と接することが苦手な入江冬子。

フリーの校閲者である冬子は、誰もいない部屋で仕事をする日々のなかで三束(みつつか)と出会って、恋をしました。

この物語では、冬子が三束に少しずつ惹かれていく姿や、冬子の周りの人との関係が丁寧に静かに描かれていきます。

◆『すべて真夜中の恋人たち』は孤独と光を描いた作品

傷つかないように、と壁を作って生きてきた冬子。

友人の聖(ひじり)を始めとする登場人物たちからの言葉が、時に心に鋭く刺さります。

特に印象的だったのは、高校の同級生だった典子に久しぶりに会うシーン。

典子は自分の現状をひたすらに話したあと「もう冬子は自分の人生の登場人物じゃないから」何でも話せるのだと、にっこり笑って言い放ちます。

友達の少ない冬子は、典子との思い出も大切に抱きしめて生きてきたけれど典子のほうでははそうではなかった。

読みながら「ううん」と唸ってしまいたくなる一言ではありませんか。

もう私には手を伸ばして抱きしめられるものは未来にも過去にもなかったのだと、典子と別れ、雑踏と雑音まみれの原宿で冬子がひとり静かに悟るシーンは、読んでいて思わずぐっと来てしまいました。

その後もひたひたと冬子の孤独さに寄り添った描写が続き、決してハッピーエンドで終わる物語ではありません。

ただ、最後にほんの少しだけ希望の光が見えて、きっとこれからの冬子を支えていくのだとほっと本を閉じることが出来ました。

◆じっくりと余韻に浸っていたくなる『すべて真夜中の恋人たち』

ーー大人の恋愛が読みたい。

そんなふうに思い手に取って読みはじめたけれど、この物語は想像していたスマートな大人の恋愛小説ではありませんでした。

でも、不器用で大人になりきれなかった人にはとても共感できる恋愛なのかも。

とても静かな小説で、冬子の孤独さに心が引っ張られてしまうときもあるけど、一つひとつの描写がきれいで惹き込まれてしまいました。

どうしても夜眠れないとき、物語に出てくるような昔ながらの喫茶店で読むことができたら幸せかもしれません。

なんとなしにした会話をあとから何度も何度も思い出すような、そういう恋に私は何度出会えたことがあるんだろう。

ふと自分が今までにした恋愛を思い返して、じっくりと余韻に浸りたくなるような、そんな恋の物語でした。